■カノウと雌雄を決する対決をした次の日の晩、ワタルと地球人タナカ・セイジに扮したナスリーは、ホシゾラ家のリビングでサキが帰るのを待っていた。そこに、サキが買い物袋をさげて帰ってくる。ワタルは玄関までサキを出迎えた。

サキ:「ワタル君!今までどこにいたの?昨日、SARTの隊長さんから電話があって、ワタル君が二日無断で休んでて携帯もつながらない、寮にもいないみたいだっていうから心配して・・・・・」
ワタル:「ごめん。ちょっと大事な用事を片付けてたんだ。」
サキ:「大事な用事・・・って?」
ワタル:「うん。それを含めて今日はサキさんにすべてを話そうと思って来たんだ。とりあえず中入ろ。」

 ワタルはサキから買い物袋を受け取り、二人は家の中に入った。リビングにはナスリーが一人で座っている。サキはナスリーを見ると会釈をし「こんばんわ」と言った。ナスリーも「こんばんわ。先日はどうも」と応えた。ワタルはサキを先に座らせ、それから自分もテーブルを挟んだ向かい側に座る。ワタルの右隣にはすでにナスリーが着席している。

ワタル:「今日はサキさんにいくつか大事な報告があって来たんだ。・・・それで、まず一つ目だけど、きのう僕はおじさんを誘拐した異星人をついに突き止めた。」

 「えっ!?」とサキ驚きの声をあげた。

サキ:「それで、お父さんは・・・」
ワタル:「残念だけどおじさんを助けることはできなかった。おじさんを誘拐したカンザス星人という奴らは、おじさんを自分たちの悪巧みに無理やり協力させようとしたんだ。だけどおじさんはそれを断固として拒んだ。その結果・・・おじさんは奴らのリンチを受け殺されてしまった。」

 サキはうつむいた。ワタルは話を続ける。

ワタル:「・・・昨日、僕はおじさんを誘拐したカノウと名乗る異星人に会い、このことを聞き出した。それから僕はカノウと対決し、そして奴を倒した。・・・結局、おじさんを助けることはできなかった。でも、少なくともこれでおじさんの仇を討つことはできた、と思う。」

 サキが、はっとしたように顔を上げた。

サキ:「でも、どうやって?昨日は仕事休んでたんでしょ?ワタルくん一人でどうやってそんなこと・・・」

 今度はワタルが下を向く。ワタルはテーブルの上で組んだ両手に額をつけ、しばし沈黙したがやがて意を決したように再びサキを正面から見据えた。

ワタル:「それはね・・・・・実は、僕の正体も異星人だからなんだ。それも、ただの異星人じゃない。強靭な肉体を持ち、様々な超能力を操り、人類のために戦う正義の超人だ。サキさんも知ってるだろう、近頃ときどき出現して話題になる、赤い巨人“アストロナイト”。・・・あれは僕なんだ。」

 目を赤く腫らしていたサキの表情がほころんだ。ワタルが冗談を言ったと思ったのだ。しかし、まったく真剣な表情を変えないワタルを見て、次第に笑顔がこわばっていく。

サキ:「・・・ウソ、でしょ?」
ワタル:「いいや、本当なんだ。僕の本当の名はニコ・サンドール。地球を調査するためにやって来た、メタリア人という種族の異星人なんだ。僕が地球にやって来たのは今から10年前。6年の調査期間を終えて母星に戻ろうとしたとき、事故が起きた。宇宙船が離陸に失敗し墜落したんだ。その時のショックで僕は記憶を失い、あてもなく山の中をさまよい力尽きていたところでおじさんに助けられたんだ。」
サキ:「じゃあ、記憶もどったんだ・・・」
ワタル:「そう。そして僕に記憶を取り戻させてくれたのは、ここにいるタナカだ。彼も実は僕と同じメタリア人で、本名をナスリー・アシッドマという。ナスリーの役目は、地球で他の異星人相手に大暴れしていた僕をとっつかまえて母星に強制連行することだった。僕が何も知らずに、人類のために異星人と闘っていたことは、母星のメタリア人たちにとってはとても迷惑なことだったらしい。」

 ワタルは軽く自嘲的な笑顔を浮かべた。

ワタル:「だけど、地球に来て僕と接触し、僕が記憶を失っていることを知ったナスリーは、僕の意思を最大限尊重する方法をとってくれた。わざわざ母星イスラマインから記憶修復装置という機械をとりよせ、僕のニコ・サンドールとしての記憶が戻るのを待ち、その上で僕に考える時間をくれたんだ。だから・・・最初は僕も反発を感じたけど、今はようやく自分の置かれている状況が理解できた。ここにい・・・」

サキ:「わかった」

 先ほどからずっとうつむいていたサキが、視線を落としたまま言った。

サキ:「母星に帰るって言うんでしょ。じゃあお元気で。さよなら。」

 サキは床を見つめたまま、すくっと立ち上がると、呆気にとられているワタルを残しリビングを立ち去ろうとした。ワタルは慌てて立ち上がり、サキの腕をつかんだ。

ワタル:「待って!」
サキ:「放してっ!!」

 サキはワタルの手を振りほどいた。ワタルは為すすべなく立ちすくむ。

サキ:「・・・わかったから。ワタルくんが宇宙人だってことも、このまま地球にいちゃいけないってことも・・・・・わかったから。・・・お願い、もう何も言わずに行って。」
ワタル:「違うんだサキさん、僕はおじさんとサキさんに会えて本当に良かったと思ってる。だから最後にお礼を、感謝の気持ちを・・・」
サキ:「やめてっ!!」

 サキが再び突き放すように叫んだ。ワタルは今度は完全に硬直した。

サキ:「やめて・・・違うの・・・・・お礼を言わなくちゃいけないのは私の方なの。お父さんの仇を討ってくれてありがとうって、全部正直に話してくれてありがとうって。記憶が戻って良かったねって、ほんとは笑顔で言ってあげたいの。・・・でも、できないから。今の私は何一つできないから!それどころか、『何でこんなこと言いに来るの?勝手にいなくなってくれた方がよっぽど良かった』とすら思ってるから!そんな自分が情けなくて、みじめで、最低で大嫌いなのっ!!」

 サキは本格的に泣き始めた。ワタルは一瞬何か言おうとしたが、結局顔をしかめてうつむいただけだった。

サキ:「・・・なんで私いつまでも強くなれないんだろう。お母さんが死んだ時も、お父さんがいなくなちゃった時も、あんなに泣いて泣いて当たり散らして、それでも何とか頑張って乗り越えてきたのに・・・・・なんでいつまでも、こんな弱いままなんだろう・・・・・」

 それっきりサキは黙り、静かに泣き続ける。ワタルも依然黙ったままである。重苦しい沈黙が続く。その沈黙を破ったのはナスリーであった。

ナスリー:「ワタルがこのまま地球に残る方法が一つだけある。」

 泣いていたサキも固まっていたワタルも、一斉にナスリーの方を振り向いた。

(最終話その7につづく ストーリーズへ