■〈東京都江原区美輪四丁目 旧イケガミ物産倉庫〉
 うす暗い倉庫の中、先ほどから一人でカノウの到着を待っているワタルは、心の中で何度も自分に「落ち着け」と言い聞かせていた。何だか体の中を、得体の知れないケモノが走り回っているような感じで、全く落ち着かない。じっとしていることがとてつもない重労働のように感じられる。心臓が耳の真横にあるんじゃないかと思うぐらい、心臓の鼓動がやかましい。止まっていると全身の血がすべて頭にのぼってきてしまうような気がして、ワタルは何度も首を回し、首筋の筋肉をほぐした。ナスリーはここには来ていない。この件はあくまでも地球人ホシゾラ・ワタルの問題であり、ナスリーは関与しないほうがいいからである。ワタルは時間を見た。現在午後8時8分。

 しばらくして、倉庫の外で車が入ってくる音がした。来たな、とワタルは思った。車のエンジン音が止み、ドアを閉める音が続く。と、その時ワタルの携帯が鳴った、ワタルは通話ボタンを押す。

ワタル:「はい。」
カノウ:「着きました。いま倉庫の前にいます。」
ワタル:「すみませんが裏にまわって建物の左端にあるドアから入ってきてもらえますか。」
カノウ:「わかりました。」

 ワタルはカノウに入れと指示したドアのすぐ隣りに立った。そして静かにアストロナイトに変身した。コツコツという革靴の底がコンクリートを叩く音が近づいてくる。足音がドアの前で止まり、ガチャという音がして扉が開く。次の瞬間、A.ナイトは入ってきたカノウに対し体重の乗った右ストレートを叩き込んだ。瞬間的に危機を察知したカノウは腕で頭をかばったが、A.ナイトのパンチはそのガードの間をすり抜けて見事カノウの顔面を捉えた。相手が人間なら、すでに首から上は残っていないはずの一撃である。しかしカノウは、「うっ」と言ってよろめいただけで倒れなかった。そこでA.ナイトは、ふらつくカノウの両足にローキックをぶち込んむ。「あ゛ーっ」と悲鳴をあげ、カノウはたまらず膝から崩れ落ちた。さらにA.ナイトは、うつぶせに倒れたカノウの肩を掴むと力任せに仰向けに転がす。そして、その上に馬乗りになると頭からメテオブレードを外し、カノウの喉元に突きつけた。

カノウ:「何の真似ですか、これは!?」
A.ナイト:「黙れ。俺の聞くことだけに答えろ。ホシゾラ・ダイスケという男を知ってるな?」
カノウ:「・・・知らない。誰ですそれは?」
A.ナイト:「知らないか。ならば思い出させてやろう。4年前の4月22日、お前は製薬会社のセールスマンになりすまし、獣医であるホシゾラ・ダイスケの家を訪ねた。そしてそこで最初に玄関に出たのが俺だ。お前の顔も名前もよく覚えている。お前はおじさんと数十分話し、その後口論になってそのままおじさんを誘拐した。今おじさんはどこにいる?なぜ誘拐した?答えろ。」
カノウ:「ああ、あの時の青年か・・・雰囲気が全然違ったから気づかなかった。」

 A.ナイトは、カノウの喉に突きつけたブレードを少し食い込ませた。カノウが思わず息を飲む。

A.ナイト:「聞かれたことに答えろ。おじさんは今どこだ?」
カノウ:「わかった!正直に答える。ホシゾラ・ダイスケは今我々のアジトで監禁してる。俺たちカンザス星人の消化器官は地球の鳥類によく似てるんだ。だから、仲間が地球に来て病気になった時、人間の獣医を連れてきて診てもらおうって話になった。ホシゾラは鳥類の病気の研究に関しては世界的な権威だろう?だから、ちょっと助けを借りたんだ。だがそれで我々のボスが、ホシゾラを気に入っていしまって、主治医として近くに置いとけって言って聞かないんだ。俺もホシゾラには申し訳ないことをしたと思ってる。でも大丈夫だ。俺を人質にしてうちのボスに掛け合えば、きっとホシゾラは開放される。一緒に我々のアジトに行こう。」
A.ナイト:「本当だろうな?・・・仲間に電話をしてみろ。携帯は?」
カノウ:「右のポケットだ。」

 A.ナイトはカノウから目は離さず、カノウのスーツのポケットに手を突っ込み携帯を取り出した。それをカノウに渡す。カノウは携帯を少し操作し、すぐに耳に当てた。しばしの沈黙。

カノウ:「・・・ダメだ。電波が悪い。場所を変えないと。」
A.ナイト:「貸せ」

 A.ナイトが手をのばすと、カノウがゆっくりと携帯を差し出した。A.ナイトが携帯の画面を見ようとした瞬間、ポンッという音と共に携帯が小さな爆発をおこした。反射的にA.ナイトは顔をかばう。しまった、と思った時にはもう遅く、下からカノウにもの凄い力で突き上げられ、A.ナイトは後ろに弾き飛ばされた。A.ナイトは床に転がったが素早く体を起こし、片膝をついた姿勢になるとカノウに対し戦闘態勢をとった。カノウはすでに人間の姿ではなく、カンザス星人の姿となりこちらを見下ろしている。(カンザス星人画像)

カノウ:「なーーーんてな。・・・嘘だよ。ホシゾラ・ダイスケなんてとっくに死んじまった。殺したんじゃない、死んじまったのさ。数年前俺は製薬会社で働いてて、いい金儲けの方法を考えついたんだ。そうだ、薬を売る前に先に病気をばらまいとけばいいんじゃないかってね。それで鳥をキャリアーとして広がっていく病原体を開発することにしたんだ。鳥類は人間の生活圏でも生息しているし、活動範囲も広いからね。そこで、それには専門家の協力を仰ぐのが一番てっとり早いだろうってことで、ホシゾラに協力を頼んだわけさ。・・・ところがアイツは我々への協力を断った。我々は莫大な額の報酬を提示したのにだぞ。・・・しょうがないから俺はホシゾラを拉致した。監禁して少し痛めつけてやれば、そのうち言うことを聞くだろうと思ってね。だが奴はしぶとかった。どんなに痛めつけても、決して我々の計画に協力するとは言わなかった。終いにゃこっちの暴力もエスカレートしてきて、ある日気がついたらホシゾラは死んでた。そういうわけだ。」

 身じろぎもせずカノウの話を聞いていたA.ナイトが視線を地面に落とす。それからゆっくりと立ち上がり、そして小さな声でつぶやいた。

 ―――――よかった

 「んっ?」とA.ナイトの様子を伺っていたカノウは訝しんだ。

A.ナイト:「・・・お前をこの手で叩き潰せる日が来て、本当に良かった。」

 今度ははっきりとカノウに対して言い放ち、A.ナイトはメテオブレードを片手に飛びかかっていった。それに対し、カノウは右手を突き出し左手をそれに添えて手のひらから光弾を放つ。A.ナイトはその光弾を咄嗟にブレードで跳ね返した。光弾が今度はカノウに向かって飛んでいく。が、すでにその先にはカノウの姿はなかった。光弾が倉庫の壁に当って爆発し、倉庫全体が震えた。A.ナイトは振り返り、カノウの姿を探す。―――いた。カノウは倉庫の表側のドアをぶち破り、外に出て行くところだった。逃すか、と思いA.ナイトもその後を追う。

 A.ナイトが外に出ると、そこには巨大化したカンザス星人が立っており、今まさに街に向かって光弾を放つところだった。爆発、炎上する街。それからカンザス星人はA.ナイトを見下ろして言った。

カンザス星人:「せっかくの“宿命の対決”だろ?派手にやろうぜ。」

 それからカンザス星人は大きくジャンプし、自分が光弾を放ち破壊したあたりに降り立った。A.ナイトも巨大化し、星人と対峙する。

《アストロナイトVSカンザス星人イシミウナ》

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