第二十話「マーズ・プラントの惨劇」
■火星移住計画の第一歩として、IDAは火星の過酷な環境下でも生存できる植物を研究・開発するための施設“マーズ・プラント”を数年前に建設した。最近では、長年の基礎研究が身を結び始めており、宇宙放射線の影響を緩和する建物を作り、その中の気温を上げさえすれば、気圧の調整や酸素の供給なしでも成長できる植物の開発に成功するなど一定の成果を上げている。

■ある日、マーズ・プラントで事件が発生した。研究施設内に突如正体不明の宇宙植物が生え、それが有毒ガスを発生させたため、施設の機能が停止してしまったのである。研究員たちは今のところ防毒マスクを装着し対処しているが、数名の研究員はすでに毒ガスを吸い込んでしまい、深刻な中毒症状が現れてしまっている。彼らは、すぐにでも地球で本格的な治療を受ける必要があった。

 報告を受けたIDAは、通常2ヶ月に一回地球からマーズ・プラントに物資を輸送している連絡船“トリロスター”(画像)をすぐに火星に向かわせることにした。トリロスターは、救助隊や毒ガスが充満してしまった施設をクリーニングするための装置、そして謎の宇宙植物を駆除するための装備などを積み込むと、早速地球を出発した。なお、救助隊にはSARTからイワオ、フブキ、イロズキ、ワタルの4隊員が参加している。当然彼らの役目は、謎の宇宙植物の駆除である。SARTは、かつて地球に飛来し繁殖した宇宙植物を駆除したことがあり、その知識と経験を買われてのことであった。

■トリロスターが地球を出発した直後、再びマーズ・プラントからSOSが入る。なんと、今度は謎の生命体の襲撃を受けているという。謎の生命体は、身長2メートル程で武器は使用しないが、体が頑丈で手持ちの小型の光線銃などでは大してダメージを与えられないらしい。フブキは、「今そちらに向かっているのでもう少し頑張って下さい」と伝えた。通信に出ていた研究員は、「何とか頑張ってみます・・・」と応えた。しかし、その直後ドンと大きな音がして、急に通信機の向こう側が騒がしくなる。

フブキ:「どうしました!?今の音は何ですか!?」
研究員:「畜生・・・奴らが・・・奴らが入ってきた・・・もうダメだ・・・・・」

 そして通信は切れた。その後、再びマーズ・プラントがトリロスターからの呼びかけに応えることはなかった。艦内を重苦しい雰囲気が支配する中、数時間後トリロスターは火星に到着した。

■トリロスターはマーズ・プラントの専用発着所に着陸した。施設内には、研究員たちを襲った生命体がとどまっている可能性が高いため、まずはSART隊員の4名が先発し安全を確保してから、救助隊本隊が中に入ることになる。イワオ、フブキ、イロズキ、ワタルは施設の玄関口から突入すると、まずは左に曲がり居住エリアへと入って行き、研究員たちが退避して集まっているはずの食堂を目指した。

■「・・・畜生」と先頭で部屋の中に突入したイロズキは、部屋の中の光景を見て思わずつぶやいた。人が重なり合うように倒れている。それも一人や二人ではない。十人以上、いや、避難した研究員のすべてがここにいるとしたら30名弱か・・・ほとんどがガスマスクをしているので表情は分からないが、どの体もピクリとも動かない。二番目に入ってきたフブキが、最も手前に転がっていた研究員の横にかがみ込むと脈を調べた。「・・・死んでる。」とフブキは誰にともなく言い、それから死体のガスマスクを取って全身の状態を簡単に確認した。

フブキ:「死因は毒ガスじゃないな。もの凄い力で体を締め付けられてる。おそらく内蔵が破裂して即死だっただろう・・・」
イロズキ:「で、その怪力の殺人鬼はどこにいるんだ?」
フブキ:「わからない。・・・とりあえずここにはいないようだ。
イワオ:「まだ息のあるものがいるかも知れない。手分けして調べるぞ。ワタルは入口で見張りを頼む。」
ワタル:「はい。」

■フブキら3人が倒れている人間たちの状態を調べていくと、かろうじてまだ息のある者が3人いた。フブキはトリロスターに待機している救助隊に連絡を入れ、重傷者が数名いるので回収のための人数をよこしてくれと伝えた。救助隊員たちは到着すると、まず瀕死の3名を船内に運び込み、応急処置を施した。その後、今度は残された遺体たちを担架にのせ、次々と運び込む作業を始めた。「本当は生きたまま救い出すはずだった」との思いが、黙々と作業する救助隊員たちの表情を険しいものにさせていた。

イワオ:「よし。じゃあ、ここは彼らに任せて俺たちは本来の仕事を始めるとするか。」

 他の3隊員は怒りを胸に静かにうなづいた。SARTの隊員4人は食堂をあとにし居住区を通り抜け、さらに施設の玄関口を横切ると研究棟へと向かった。

■4人が研究棟の廊下をしばらく進むと、前方に何か動くものの気配がした。4人は立ち止まり、銃を構えそのまま前方を注視する。近づくにつれて、次第にそのものの輪郭がはっきりとしてくる。明らかにそれは人間ではなかった。奇妙に横幅のあるシルエットは、しいて言うならばドラム缶に手足が生えているような感じだ。ズシャ、と一歩進むごとに重々しく響く足音。(怪人画像)まず、イロズキとワタルがSART隊員の標準装備である光線銃ブレイザーガンで攻撃の口火を切った。光線は命中するが、怪人は意に介さず前進を続ける。二人は銃撃を続け、ついには怪人の肩から生える角のようなものが吹き飛ぶ。そこで初めて怪人は動きを止め、その場に倒れ込んだ。

イロズキ:「タフだな・・・」
ワタル:「はい。でも動きは遅いし、高度な知能も・・・」

 突然、死んだと思った怪人が再び起き上がり、襲いかかってきた。それを見たフブキが、構えていた小型のロケットランチャーを放つ。弾は命中し、軽い爆発をおこすと怪人の体に粉末状の薬品をばらまいた。すると怪人の体は白い煙を上げながら溶け始め、ものの十数秒でこげ茶色の塊と化した。

ワタル:「効果てきめんですね。やっぱり植物系の宇宙生物はみんな似たような組織をしているんでしょうか・・・」
フブキ:「さあね。これはボサラスの駆除に使った薬品に大分手を加えて、出来るだけ他のタイプの宇宙生物にも効果があるように成分を調整してあるんだ。まあ、何にしても効果があるんならいいさ。」
イワオ:「あんまり無駄遣いすんなよ。そいつは本来第8プラントにはびこってる謎の植物を駆除するために使うものなんだからな。」
フブキ:「はい。」

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