第11話 「プロジェクトBH」(後半)
■〈バトル・オーガ・オペレーション・システム(通称BOOS)ついて〉
 インストラクターと呼ばれる操縦者の身体動作の意思情報をコンピュータが複雑な暗号にしてBオーガ内部のコンピュータに飛ばす。オーガ内部のコンピュータには一種の“鍵穴”のようなものがついており、それに適合する暗号でなければ反応しない。万が一、BOOSの暗号情報が漏れた場合には、“完全停止命令”を送る。その場合、Bオーガ内部のコンピュータはその後一切の命令を受け付けなくなる。

■〈バトル・オーガ管制室〉
 エンジニアの一人オオスギの元に郵便が届く。
女性オペレーター:「オオスギさん、郵便届いてますよ。」
オオスギ:「おお!来たか!」(いそいそと包みを開けて中身を確かめる。)
女性OP:「嬉しそうですね。何なんですか?」
オオスギ:「いやあ、実はこのあいだ女房が出産してね。俺がしばらく仕事休めないから、子供の映像を送ってもらうように頼んであったんだ。」
女性OP:「えー、おめでとうございます!息子さんですか、娘さんですか?」
オオスギ:「息子だ。いつか一緒にキャッチボールできるように、もう子供用のグローブも買ってあるんだ。」
女性OP:「あはは、それはちょっと気が早すぎですよー」
オオスギ:「だな(笑)そんじゃ俺ちょっと休憩入ってくるわ。チーフ!少し休憩いただいていいですか?息子のビデオが届いたんで。」
チーフ・エンジニア:「おー届いたか。コソコソ見ないで、ここのスクリーン使って皆にも見せてくれよ。」
オオスギ:「え?いいんですか?じゃあお言葉に甘えて。」

 オオスギがディスクをドライブに挿入する。すると生まれたばかりの赤ん坊の姿がスクリーンに映った。人がスクリーンの前に集まってきて、口々に「おめでとうございます。」や「可愛いですねー」、あるいは「名前は何て言うんですか?」などとオオスギに声を掛けた。

■30秒ほど経った時、突然赤ん坊の映像が消え、代わりに不気味な怪人の姿が映し出された。(怪人画像)怪人は右手の指を3本立てカウントするように一本ずつ指を折ってゆき、ゼロになると、グフッ、グォフフフフ・・・と低く笑い始めた。呆気にとられる一同。チーフ・エンジニアがはっと気付く。

チーフ・エンジニア:「しまった!ウィルスだ!オオスギ!すぐにセキュリティをチェックしてウィルスが何をしたか調べろ!」
オオスギ:「あ、は、はい!」
(十数秒後)
オオスギ:「大変だ・・・BOOSの暗号がどこかに送信されています・・・」
チーフEG:「クソッ!そんなこったろうと思った。すぐに特務官に連絡しろ。完全停止命令を許可してもらわなきゃならない。」
(タイミング良く、ソノダ特務官が入ってくる。)
ソノダ:「どうした?何の騒ぎだ?」
チーフEG:「申し訳ありません。ウィルスに侵されたソフトを使用してしまいBOOSの暗号情報を盗まれました。」
オオスギ:「私の息子の映像にウィルスが仕込まれていたんです・・・」
ソノダ:「バカな!!ビデオ鑑賞などなぜAVルームを使わない!!」
チーフEG:「申し訳ありません。私がうかつでした・・・」
ソノダ:「すぐにオーガに完全停止命令を送れ。」
チーフEG:「はっ!」

 ところが、オーガは命令を受け付けない。グルップスの破片により“鍵穴”の情報が書き換えられているのだ。

オオスギ:「オーガ完全停止命令を受け付けません!なぜか暗号情報が書き換えられています!」
ソノダ:「すぐに整備班に連絡。オーガを解体し内蔵コンピュータを取り出しチェックしろ!」

 内線電話が鳴る。すぐにソノダが取る。
整備員:「こちらBO格納庫、整備班のフクザワです。突然オーガが動きだしたんですが、どうゆうことでしょう?」
ソノダ:「くそっ!」
整備員:「えっ?何ですか?」
ソノダ:「いいか、よく聞け。先ほどBOOSの暗号情報が何者かに盗まれた。つまり、今それを動かしているのは我々じゃない。そこにいたら危険だ。すぐに全員退避しろ!」
整備員:「りょ、了解。」

 オーガは、格納庫から地上に伸びる巨大な垂直のトンネルを、足場を見つけると身軽な動きで登り始めた。

オペレーター:「オーガ、地上に出ます。」
オペレーター:「オーガ、動き出しました。方角は東南東!」
ソノダ:「その先には何がある?」
オペレーター:「15キロ先に特別防衛センターがあります。」

■〈IDA特別防衛センター SART指令室〉
オペレーター:「バトル・オーガ管制室から報告が入りました。本日午前11時13分ごろ管制室のコンピューターにウィルスが侵入、コントロールシステムの暗号情報を盗まれ、さらに管制室からのバトル・オーガコントロールも不能になっています。現在、バトル・オーガ本体は何者かの制御によって活動中。こちらに向かっているとのことです。今、ソノダ特務官からも通信が入りました。映像が出ます。」

 ソノダの姿がスクリーンに映し出された。表情は一見いつもと変わらないが、さすがに顔からは血の気が失せている。

ソノダ:「オーガのコントロールを強奪されました。このままではオーガが防衛センターに壊滅的な被害を与えることになります。今、我々は何とかオーガを無効化するための策を実行に移したいと思っています。ただ、この作戦を実行するにはSARTの皆さんの協力が不可欠なのですが。」
フウリュウ:「どのような作戦ですか?」

 ソノダが作戦の内容を話し始める。それは以下のようなものだった。
〇オーガの輸送機スカイ・マンタに、オーガが活動不能になってしまった時のために準備されていた強制回収ユニット(画像)を取り付ける。
〇SARTが出撃、オーガの足止めをしつつ、注意を引く。
〇SARTが注意を引いている間に、マンタは出来るだけオーガに接近し、一気にオーガを捕捉、空中に吊り上げてしまう。
〇そのまま、太平洋上に出てオーガを海に沈める。

ソノダ:「協力していただけますか?」
フウリュウ:「勿論です。今は議論をしているような場合ではないですから。」
ソノダ:「ご理解、感謝します。」(深々と頭を下げる。)

■〈バトル・オーガ管制室〉
ソノダがBHプロジェクトチームのナンバー2、イシヤマに声を掛ける。
ソノダ:「私はマンタに乗る。ここを頼む。」
イシヤマ:「ご冗談を・・・」
ソノダ:「冗談ではない。オーガもマンタも私が開発したものだ。あいつらの性能は私が一番よく分かっているし、責任もある。頼んだぞ。」
 
 呆然とするイシヤマを残し、ソノダは管制室を出て行った。
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