■イワオは山の麓の小さなほこらの前で祈りを捧げているコルンを見つけると、背後から近づいた。

イワオ:「そこで何をやってる?あの怪獣が君の言っていた神獣か?ならばあいつを止めてくれ。あれに街に出られたら大変な被害が出る。」
コルン:「ならば教えろ。サンドラ王国はどっちの方角だ?」
イワオ:「・・・さっきも言ったが、ここは君の生きていた時代から一万年以上経った未来の世界だ。サンドラ王国はもうどこにも存在しない。」
コルン:「そんな突拍子もない話が信用できるか!いいだろう。君たちがあくまでそういう態度ならば、私はサターニャを使って、手始めに君たちの街を押しつぶしてやる。そうすれば、そういう戯れごとを言う余裕もなくなるだろう!」
イワオ:「待て!じゃあ一つ聞くが、君は君が乗ってきた乗り物の入口の扉に、外側から書かれていた文字を読んだか?」
コルン:「・・・・・」
イワオ:「やはり、読んでいないか。俺たちはさっき君が乗ってきた乗り物を発見した。その入口の扉には、こんなものが書かれていた。」

 イワオはコルンに古代文明の文字が書かれたメモを渡した。それに目を落としたコルンの顔に、みるみる驚きと困惑の色が広がった。

コルン:「これは・・・」
イワオ:「その文を俺たちの言葉に翻訳するとこうだ。“残念ですが私たちは滅びます。貴方は私たちの最後の希望です。そこで生きて下さい。”そして最後の4文字はおそらく署名だろう。俺たちには何て発音するのか分からないが・・・」
コルン:「ヴィサナ・・・サンドラ王国の王女、つまり私の母の名だ。」
イワオ:「・・・そんなことじゃないかと思ったよ。これで分かったろ?君の母さんは、最初から君をワンナイの地なんかに送る気はなかった。君をタイム・ワープさせて未来に逃し、一人でも生かすつもりだったんだ。分かったら、さっさとあのデカブツを元の山の中に戻してくれ。」
コルン:「なぜ私だけが・・・私には3人も兄がいたのに・・・・・」
イワオ「王様は君を一番買ってたってことだろうよ。ゆくゆくは次の王にとも考えていたんじゃないのか?君の両親は、言ってしまえば君を騙してタイムマシンに乗せたわけだが、君を見込んでいて、君に最後の希望を託したってのは嘘じゃなかったってことだな。」
コルン:「父上・・・・・」
イワオ:「君は、この未来の世界で、君の家族や友人たちが生きれなかった分まで生きればいい。それが君の両親が望んだことなんだ。この世界にはもう、君が救うべき国も、打ち滅ぼすべき敵も存在しない。だから、あの怪獣はもう君には必要ない。あれを元に戻し、君はこの世界の人間として新しい人生をスタートさせるんだ。」
コルン:「・・・・・分かった。サターニャをもう一度封印する。ただ、それには君の手助けが必要だ。」
イワオ:「どうすればいいんだ?」
コルン:「私があの石の上に立ったら、君は封印の呪文を唱えてくれ。封印の呪文はこうだ。“オクトラマ タマイヌ ヒツカズ キゲンジョウ”これを3回くり返し、その後にこの石を私に向かって投げてくれ。」

 そう言うと、コルンはイワオに奇妙な文字が刻まれた手のひらサイズの石を手渡した。そして自分は、ほこらから少し離れたところにある、土に半分埋まった扁平で大きな石の方に歩いていくと、その上に乗った。

イワオ:「なぜ君が呪文を唱えないんだ?」
コルン:「サターニャを封印するには、少なくとも一人以上の生け贄が必要だ。生け贄となる者が封印の呪文を唱えることは認められない。」
イワオ:「それじゃあ、君は死んでしまうのか?」
コルン:「当然だ。“生け贄”だからな。」
イワオ:「それじゃ、話が・・・」
コルン:「では、君が身代わりになってくれるか?それならば私が呪文を唱えよう。」
イワオ:「えっ・・・いや、それは・・・」

 そこでコルンの目つきが急に優しさを帯びたものになり、それからゆっくりと微笑んだ。

コルン:「冗談だ。さあ早く。サターニャが君の仲間を殺めてしまうようなことになる前に。」

 イワオはやむを得ず、言われた通りに封印の呪文を唱え、コルンに向かって石をほうり投げた。すると石はコルンにぶつかる直前で空中に静止し、コルンは足元から青い炎に包まれていき、そしてその姿を消した。それと同時に、A.ナイトと交戦中だった怪獣サターニャも金の粉となって空に昇っていった。

■〈つつが岳ふもと 小さな祠のある場所〉

「これで良し、と・・・」

 イワオは高さ60センチほどの墓石を、サターニャ封印のための供犠台となった大きな石のとなりに運び込んだ。その墓石には、「サンドラ王国の王子コルン ここに眠る」という文字が刻まれている。さらにイワオは、花束と、コルンが消えたあとに残っていた、古代文明の文字が刻まれた石をその墓石の前に並べ、それから両手を合わせて拝んだ。しばらくして目を開けると、こうつぶやいた。

「いつの時代でも、親の思いってのは届かねえもんだな・・・」

 じゃあな、と言ってイワオはほこらを後にした。数歩あるいたところで、墓石の前に置かれた石が一瞬キラリと光った。んっ?と思ってイワオは振り返るが、もちろんそこに何も変化はない。気のせいか、とイワオは再び前を向き坂を下り始めるのであった。

(第19話おわり ストーリーズへ