第一九話 「時の迷い子」
■今から1万2千年前、地球上のある地域に高度な文明を誇った王国があった。その国はサンドラ王国と称していた。王国は、優れた科学技術を持ち、肥沃な大地にも恵まれ、そして何よりも統治者であるリキ一族の善政によって繁栄を謳歌していたが、ある時突如として滅亡の危機に立たされることとなった。

 その原因は大洪水でも大陸の沈没でもなく、侵略者であった。それも空からの侵略者である。ルチル星人と名乗る宇宙人がたまたま地球に立ち寄り、そこにあったサンドラ王国を襲ったのである。ルチル星人は圧倒的な武力を用い、一方的にサンドラ王国の街を破壊し民を虐殺した。目的などは無い、単に破壊と殺戮そのものを目的とした残虐な行為であった。

 賢君を輩出し続けてきたリキ一族の中でも歴代最高の賢君と謳われている国王、ルシャーダ・リキもこればかりはどうすることも出来なかった。しかし全く希望がない訳ではない。ルシャーダ王は、先代の王からある“特殊な乗り物”を秘宝として受け継いでいた。先代の王曰く、「王国が滅亡の危機に瀕したとき、これを使え」とのことであった。ルシャーダはこれを使う覚悟を決めた。そして末の息子であり、彼がその勇気と才覚を最も愛した王子コルンを王の間に呼んだ。

ルシャーダ:「このままでは我々の国は滅びてしまう。かの者たちの強大な武力に対抗するには、我々も最後の切り札である神獣サターニャを呼び起こすしかない。私は、お前を見込んで、この大事な役目をお前に任せたいと思う。サターニャは、ここから遠く西へ行ったワンナイの地にあるノボトケ山のふもとに眠っている。ワンナイの地に行き、神獣を復活させ、王国を破滅から救ってくれ。・・・この乗り物はお前を自動的にワンナイの地まで連れて行ってくれる。いいか、コルン、我々の未来はお前にかかっているのだ。頼んだぞ。」

 コルンはルシャーダ王が用意した、不思議な形をした乗り物にに乗り込んだ。乗り物は、少し細長い巨大な卵のような外形をしており、その中に仰向けに横たわって乗るものらしい。「何だか乗り物というよりは棺桶のようだ」とコルンは思った。母である王女ヴィサナが乗り物の扉を閉じると、中は真っ暗になりコルンには何も見えなくなった。しばらくして腹の底に響くような低いブーンという音がコルンの周りを包んだ。どうやら乗り物が動き出したらしい。乗り物はとても速く動いているような気もするし、とてもゆっくり動いているような気もする。不思議な感覚だ。そんなことを考えているうちにコルンはいつの間にか意識を失った。

 どの位の時がたったのだろうか。コルンは光の中で目を覚ました。“乗り物”の中で横たわっているコルンの、ちょうど顔の位置に30センチ四方ぐらいの窓が空いていて、そこから青空が見えている。母上が扉をしめた時にはこんな窓はなかったはずだ、とコルンは思った。どうやら乗り物が停止すると窓が開いて光を取り入れる仕組みになっているらしい。ということは目的地に着いたということだ。コルンは外へ出ようとして入口の取っ手を回そうとした。しかし、取っ手は動かない。コルンは周りを見渡した。すると左側の壁面に赤いランプが点っていることに気付く。そしてその隣には小さなレバーがついている。コルンはレバーを動かした。すると入口の扉の方から「カシャ」という小さな音がして、壁面の赤いランプの色が緑に変わった。もう一度、入口の取っ手を回す。今度はすんなりと動く。扉を開け、コルンは外に出た。

 コルンは見知らぬ土地を歩いた。所々にくすんだ色をした奇妙な建物がたっている。そして気温が低く、寒い。サンドラ王国の風景はこういう風ではない。王国は年中暖かく、建物は皆鮮やかな色でカラフルに塗られており、街全体がいかにも陽気なたたずまいをしている。これがワンナイの地か、とコルンは思った。しばらく歩くと不思議な格好をした人間に出会った。彼は道を聞こうと思い、にこやかに話しかけた。

コルン:「こんにちは、私は西のサンドラ王国から来たものです。ここはワンナイの地で間違いないでしょうか?私はノボトケ山に行きたいと思っているのですが、どこにあるかご存知ですか?」

 不思議な格好をした人間は、少しこわばった笑顔で首を横に振り、何か言葉を発した。しかし、その言葉をコルンは理解することが出来なかった。言葉が通じないのか―――

 コルンは愕然とした。

■一方、SARTは街で何やら訳のわからない言葉を発しながら暴れている青年がいる、という通報を受け、その青年を保護した。青年は興奮しており激しく抵抗したため、やむなく無理矢理に取り押さえて麻酔薬を打ち眠らせるという方法がとられた。意味不明の言語を発していたため、人間に化けた宇宙人ではないかという疑惑が持たれたが、青年の体を調べると彼はれっきとした人間であった。しかし、さらに彼の体を細かく調べていくと驚くべきことが分かった。彼の骨格の特徴や遺伝子情報は、彼が、少なくとも1万年以上前の地球上の住人であることを示していた。つまり彼は古代人だったのである。

 フブキ隊員は、青年が発していた言葉の録音データを頼りに、ヘッドセット型の自動翻訳機を作った。そして改めて、目を覚ました古代人の青年に事情聴取をすることにした。彼は自分の言葉が翻訳されて通じていることに安心した様子で、まず自分がサンドラ王国の王子コルンであると名乗った。さらに彼は、自分の故郷のサンドラ王国が今、宇宙人の侵略を受け滅亡の危機にあり、それを回避するためには、宇宙人に対抗するための兵器として“神獣”を復活させなければならず、その神獣はここ、ワンナイの地にあるノボトケ山のふもとに眠っている。そしてその神獣を復活させる儀式を行う使者として自分がここに来たのだ、ということを落ち着いた態度で説明した。

 それに対し、SARTの隊員たちは、青年にとって受け入れがたいであろう事実を、包み隠さず伝えるしかなかった。つまり、ここはサンドラ王国が滅びてから1万年以上経った未来で、もはやサンドラ王国は存在しないと説明したのである。すると、コルンはその説明に全く耳を貸さず、再び興奮して暴れ始めたために、鎮静剤を打って拘束することとなった。

フブキ:「彼が本当に1万年以上前の過去から来たのなら、どこかに彼の乗って来たタイムマシンがあるはずだ。時空を超えてやって来たのだとしたらタイムマシンの周辺は磁場が大きく乱れているはずだ。彼が最初現れた街の周辺を調べてみよう。」

■タイムマシンは程なく見つかった。一方、軟禁されていたコルンは巧みに監視をすり抜け、IDA特別防衛センターを抜け出す。夜の街に出た彼は、人気の少ない場所で通行人を刃物で脅し、翻訳機を通して話しかけ、ノボトケ山がどこにあるかを問いただした。しかし、誰もノボトケ山の場所が分かる者はいなかった。コルンが途方に暮れていると、首にかけていた神獣サターニャを復活させるための言葉が刻まれた石が光り始め、そこから光の線がのびて、ある方角を指した。コルンはその光が指す方角に向かい歩き始めた。

■その頃、防衛センターではコルンの脱走が発覚し騒ぎになっていた。しかし、用意のよいフブキは予めコルンの服に発信機を取り付けていた。その信号を頼りに、イワオとワタルはコルンを再び保護するために発信機の示す、つつが岳という山のふもとへ向かった。

■つつが岳のふもとに二人が着いた時、突如地面が揺れ、山が崩れ、怪獣サターニャがその姿を現した。(怪獣画像)

イワオ:「ちっ、遅かったか!ワタル、お前は司令室に連絡を入れて応援を呼べ!俺はコルンを探す!」
ワタル:「はい!」

 ワタルは司令室に連絡を入れた後、少しでも怪獣の進撃を食い止めようと手持ちの銃で攻撃を始めた。しかし、サターニャは全く意に介さず前進する。ワタルは後ろを振り向いた。そして、数百メートル先に数軒の民家が点在していることを知る。応援が来るまで間に合わない、そう思いワタルはアストロナイトに変身した。

《アストロナイトVSサターニャ》

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