第十八話 「ニコとナスリー」
■〈IDA特別防衛センター SART司令室内 隊員用執務室〉
 フブキのデスクの上に少し大きめのキーホルダーのようなものが置いてある。形は円形で厚みは1センチほど。片側だけカバーがはずれており、中には何やら複雑な機械が組み込まれていることが分かる。興味を持ったワタルがフブキに話しかけた。

ワタル:「フブキさん、その怪しげなキーホルダーみたいの何ですか?」
フブキ:「ああ、これ?まだ、試作段階なんだけど“ヒット・ディスターバー”って言って、光線銃なんかの兵器として使われる光線を誘導することができる小型の装置なんだ。」
ワタル:「ヒット・ディスターバー!?なんか凄そうですね。ゆくゆくは僕らの装備になるんですか?」
フブキ:「んー、それはまだ何とも言えない。僕がちょっと思いつきで作っただけだから。あ、そうだ、どんな働きをするか実際に見てみる?」
ワタル:「いいんですか?それは是非見たいです!」
イロズキ:「なになに、何か面白い話?なら俺も混ぜてよ。」
フブキ:「よし。じゃあ、ここじゃまずいから射撃場に行こう。」

 という訳で、フブキ、ワタル、イロズキの3人は“新兵器の性能実験”のために射撃訓練場に向かった。

■〈IDA特別防衛センター 射撃訓練場〉
 フブキはスイッチを入れたヒット・ディスターバーを前方に山なりに放り投げると、続けて素早く射撃の的がある方向とは反対に向けて光線銃を放つ。すると光線はものの見事にUターンし、まだ空中にあるディスターバーを貫くと、さらにその先の的に命中した。

フブキ:「まあ、こうゆうものなんだけど。」
ワタル:「す、凄い。なんかギャグマンガのような現象が起こりましたね・・・」
イロズキ:「うーん、確かに手品としちゃあ面白いけど、これ実際にはどういう状況で使うの?」
ワタル:「そりゃあ・・・敵の宇宙人に光線銃で狙い撃たれた時ですよ。」
イロズキ:「なら、こっちも普通に撃ち返せよ。そんなもの放り投げてるヒマがあったら。」
ワタル:「あ、そうか・・・」
フブキ:「だから、まあ他の武器を持っていない場合だな・・・」
イロズキ:「つまり、相手が光線銃を武器としていて、こちらが他に武器を持ち合わせていない場合のみ使い道があるってことか。まあ、持ってないよりはマシって感じだな・・・」
フブキ:「そうなんだよなぁ・・・イロズキの言う通り、これを携帯する必要性は薄いんだ。実を言うと、始めは防御用の装備として、小型のバリヤー発生装置を研究していたんだけど、これが技術的にとても難しくてね。それで、じゃあはね返すんじゃなくて相手の攻撃をそらすっていうのではどうだろうと思ってこいつを作ってみたんだけど、やっぱり代わりにはならないな。わかった。ありがとう、意見が聞けて良かったよ。」

 ということで、ヒット・ディスターバーのお披露目は終わり、3人は解散した。ディスターバーの試作機は残り二つあったので、それぞれフブキとワタル(イロズキは要らないと言ったため)が一個づつ持つことになった。

■その後、ワタルはパトロールに行くため防衛センターの地下駐車場に降りた。広い駐車場をワタルは早足で歩いていく。そして、その途中柱の陰に奇妙な物体がたたずんでいることを目の端で捉えた。ワタルは立ち止まり、その物体に向けて話しかける。

ワタル:「何の用だ?」
ナスリー:「仕事場にまで押しかけてしまってすまない、ホシゾラ・ワタル。」
ワタル:「ワタルでいい。」
ナスリー:「では、ワタル。私はあれから一度、改めてサキさんと会い少し君について話を聞いた。君は異星人に誘拐されたサキさんの父親を探すためにSARTに入ったそうだね?」
ワタル:「・・・ああ」
ナスリー:「そんな君に今日は有益な情報を持ってきた。私も地球で活動している以上、それなりに他の異星人と情報交換をするためのネットワークを持っている。そこで最近気になる情報をつかんだ。アサルティア人という異星人が、東京の繁華街にあるショッピングモールの地下をアジトにして、人間を誘拐し、その身体構造を調べるための実験を繰り返しているということだ。」

 それを聞いたワタルの表情がみるみる険しくなる。

ワタル:「どこだ、それは?」
ナスリー:「案内しよう。」

 そう言うとナスリーは、ワタルがいつも使っているIDAの特殊車両の助手席に乗り込んだ。

■〈エリアTM−13 某ショッピングモール〉

ワタル:「本当にこんな街のど真ん中に異星人のアジトがあるのか?」
ナスリー:「こんな場所だからいいんだ。人も物も出入りが激しいからかえって目立たない。地下14階から17階がアサルティア人のアジトだ。」
ワタル:「それって、ここの従業員みんなアサルティア人ってことか?」
ナスリー:「いや、その可能性はない。地球に滞在するアサルティア人は30人ほどのグループだ。ここの施設を経営する地球人は、何らかの理由でアサルティア人に協力していることになる。アサルティア人グループが多額の金を出しているのか、それとも首脳陣を洗脳したか・・・来たぞ。」

 ナスリーが指をさした先を見ると、グレーのスーツを着た男が歩いていた。入り口から入ってきた男は、売り場を真っ直ぐ突っ切ると従業員用の扉を開いて中に入っていく。ワタルとナスリーは男のあとをつけた。男は在庫商品の入ったダンボール箱がうず高く積み上げられた部屋を奥へ進んでいくと貨物用のエレベーターに乗った。そして階数の書かれたボタンが付いているパネルの前で手をかざすと、「カチャ」という音がして、通常の階数のボタンがあるパネルがフタのようになって開き、その下から別なパネルが出てきた。そのパネルには14、15、16、17というボタンが付いていた。男は15を押した。

 それを見たワタルは一気に駆け出し、エレベーターの前に躍り出ると驚いたスーツの男を躊躇なく銃で撃った。男は苦しげな声を上げ倒れる。床に横たわったその姿は、もうすでに奇怪な異星人の姿になっていた。(アサルティア人画像)それとほぼ同時に、ワタルとナスリーは閉まりかけたエレベーターの扉をすり抜け中に入った。エレベーターは地下15階に向かって動き出す。

■二人はアサルティア人のアジトである地下15階に降り立った。ナスリーがハンディカムのビデオカメラのような機械を覗き込みながら言った。

ナスリー:「おそらく誘拐された人たちは地下16階にいる。この下に地球人のものらしき生体反応が無数に確認できる。」
ワタル:「で、作戦はどうする?」
ナスリー:「正面突破でいく。私は下に行き地球人たちを保護する。君はこの階とその上、それと17階に行ってそこにいるアサルティア人たちをすべて始末してくれ。彼らの数は今確認できる限り28人だ。28人倒したら16階に来てくれ。アサルティア人の個々の戦闘能力は大して高くない。君が変身して戦えばすぐに片が付くだろう。安全が確保できたら、それから人質たちをエレベーターで上にあげる。」
ワタル:「オーケイ、それで行こう。」

 その時ちょうど通路の曲がり角の向こうから3人のアサルティア人が姿を現した。ワタルはアストロナイト変身すると異星人たちに向かって突進した。

(第18話その2に続く ストーリーズへ