第十四話 「海底難民」
■UNSM(国連保安海軍)所属の原子力潜水艦が、小笠原諸島沖で原因不明の事故を起こして沈没し、その原因を究明するための調査がSARTに依頼される。本来、そのような調査はSARTの仕事ではないはずだが、どうやら新しく配備された新型の潜水艇の使い勝手を確かめたくてしょうがなかったフウリュウ隊長が、UNSMに頼み込んでわざわざ仕事を回してもらったということらしい。

 今のままでも十分忙しいのに、わざわざ新たな仕事を他所でこしらえてきたフウリュウ隊長に、他の隊員達は皆一瞬めまいを覚えたが、隊長はどこ吹く風で楽しそうに志願者を募っている。結局、ウインド・ウォーリアーのミサイル発射システムのチェックで手が離せないというフブキ隊員と、隊長が事情を説明し始めた時点でそっと司令室から姿を消したイワオ隊員を除く、イロズキ、ワタル、ギン、そしてフウリュウ隊長の4人が原潜沈没事故の調査に向かうこととなった。

■4人を乗せた潜水艇トリトン(画像)は小笠原諸島沖で海底の探索を行うと、問題の原潜の残骸を発見し、調査を始める。そして調査を終え戻ろうという時、イロズキが少し先の別の海域で奇妙な現象が起きていることに気付く。

イロズキ:「ほら、ここです。海中の酸素濃度が異常に高い。それに温度も・・・まるで海底に巨大な空気の塊があるみたいだ。」

 そこで、潜水艇トリトンは少し先の問題の海域に向かった。すると、そこには驚きの光景が待ち受けていた。深海3千メートルの海底に突如として、巨大な植物のような建物が林立する“海底都市”が現れたのである。(画像)海底都市は全体が巨大な半球形の透明なドームに収まっており、どうやらそのドームの中には水ではなく空気が詰まっているようである。

イロズキ:「何だ、こりゃあ・・・」
フウリュウ:「こちら、トリトン。調査海域の少し先の海に異常を認めたので、少し出張って調べていたんだが、妙なものを見つけた。明らかなオーバーテクノロジーの海底都市だ。異星人の仕業である可能性が高いので、もう少し近づいて情報を集めてみる。」
フブキ:「こちら指令室、フブキです。了解。でも十分注意して下さいよ。」
フウリュウ:「ああ。分かった。」

■トリトンは更にドームに近づき、海底都市の様子を探った。すると、どこからかバスケットボールぐらいの大きさの球形のロボットがやって来て、トリトンの周囲をぐるぐると回った。その後、球形ロボットはトリトンの前方に来ると一旦停止し、それから数メートル先に進んだ。が、トリトンが後について来ていないことに気がつくと再び止まった。

イロズキ:「我々を先導するつもりですかね?」
フウリュウ:「悪意はなさそうだ。ついていってみよう。」

 球形ロボットに先導されトリトンは進む。今まで気が付かなかったが、ドームの反対側にはもう一つ10分の1くらいの大きさの小型のドームが本体のドームと並んで存在し、小型ドームのほうには4分の1程の高さまで水が入っている。また、小型ドームには側面からフラスコの口のような突起が横向きにのびており、どうやらそこから中に入れるようだ。

■小型ドームに入ったトリトンは、水面に浮上し、桟橋のような所に辿り着くと船体を固定された。一行は外に出る。思った通り、外は空気だ。桟橋には数人の宇宙人が立っていた。(宇宙人画像)

リベル星人代表:「ようこそお越し下さいました。この星の原住民の方々ですね?」
フウリュウ:「その通りです。貴方がたは?」
リベル星人代表:「私達は、リベル星という星からやって来た者です。訳あって少し前からこの星の海底をお借りして暮らしております。」
フウリュウ:「よその星からやって来て、その星の住人に何も言わずにこっそり住みつくなんてあまり行儀の良い行動とは言えませんね。」
リベル星人代表:「申し訳ありません。こちらにも色々と事情とがございまして・・・。何にせよここではなんですので、中にご案内いたしましょう。」

■一行はリベル星人達に案内されて大ドームに入り、続いて建物の中に入ると応接室のような場所に通された。そして、そこでリベル星人の身の上話を聞くことになる。リベル星人側の主要な人物は、ジンナム議長とベトリス首官の二人である。ジンナム議長は、“ゴダイギ”という海底都市に住むリベル星人たちの総意を決める民主議会のトップであり、ベトリス首官は、そのゴダイギで決定したことを実現していくための事務を行う“ビクイーン”という行政機関のトップである。主に話をするのはジンナム議長の方であり、ベトリス首官が口を開くのは、ジンナム議長の話を少し訂正したり、補足する場合だけであった。
 
 ジンナム議長の話によると、リベル星では戦争が長い間続いており、その結果住む場所を失った難民が溢れているのだという。そこで、その対策として、巨大な宇宙船を建造し難民を収容して、リベル星の混乱が収まるまで他の星に移住させようという計画が実行に移されたのだ。

ジンナム:「しばらく宇宙をさまよい、燃料も尽きかけようという時、この星に辿り着いたのです。もちろん最初は貴方がたの許可を取り、地上に居住区を確保してもらおうかとも考えました。しかし、この星の住人が私達のわがままを優しく聞いてくれる種族だとは限りません。それどころか一方的な迫害を受ける可能性だってあります。さらに、リベル星は“水の星”であり、私達も暮らしていくのに大量の水を必要とします。ならばいっそ、この星の海の中に住みついてしまえば・・・土地や水を確保してもらうという面倒をかけずに済みますし、うまくいけば我々の存在を気付かれずに済むかもしれない、と思ったわけでして・・・」

フウリュウ:「なるほど。話は分かりました。上の者に報告し、貴方がたの居住権を認めてもらえるように掛け合ってみましょう。ご心配なさらずとも、私達地球人は貴方がたが懸念しているような冷酷な種族ではありませんよ。」
ジンナム:「ありがとうございます。くれぐれも宜しくお願い致します。」
フウリュウ:「任せて下さい。・・・ところで、最近この近くで私達の潜水艦が事故を起こして沈没しているんですが、それについて何かご存知ないですか?」
ジンナム:「いや、ちょっと分かりませんが・・・もしかして私達が疑われているのでしょうか?」
フウリュウ:「いやいや、そうゆう訳ではありません。我々が元々その調査でここへ来たものですから、何か情報が得られればと思ったんですが・・・ご存知ないならいいんです。」
ジンナム:「お役に立てなくて申し訳ありません。」

 話を終え、SART隊員達はリベル星人の海底都市を後にした。

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